目の前に広がる田園風景とビニールハウス。
仲良く作業をされているのは、笠井農園の笠井清さんと訓江さんご夫妻。
松阪市田村町で、土にこだわった米とバラ作りをしています。
バラの栽培を始めて、もう40年以上が経ちました。
作物が育っていく過程が、2人にとって楽しく嬉しい時間です。
清さんの思う農業ができるのは、陰で支える邦江さんがいるから。
お互いに感謝と尊敬の気持ちを持って農業に取り組みます。
食
べるものの基本は土からできる
清 食べるものも他のものにしたって、生き物を育てる土から、直接生産したものを、人間が糧にするのが基本。
それをしたくて農業をはじめました。
土が大切だと思っています。
稲は千年も同じ土地で作られていますよね。
不思議ですよね。
稲が伝わってからそれこそ千年以上になるのに、それをずっと同じ土地で作られ続けているというのは、とてもすごいことだと思います。
ハウスで同じものを作り続けるのは大変難しい…できないです。
近年、バラはほとんどが『ロックウール栽培』が主流で、土で作っている人は非常に希少です。
土耕栽培というのだけど、土で作っている人のほうが希少です。
連作ができないので土を入れ替えたりしないといけない。
だから今はロックウール栽培が主流となりました。
しかしトマトにしてもハウスで作るものしても、稲にしてもすべて基本は『土』だと思っていますから、美味しいものは土で。
美味しくて栄養がたくさんあるものは土からですし、バラでも色だったり形だったり花持ちが良かったり…品質の良いものは土だと思っています。
清
さんは好きなことができるから幸せな人
訓 清さんはすごいと思います。
でも、大変ですよね。
だからまあ、好き勝手やっているので幸せな人だと思いますよ。
本当にそう思います。
農家ってあまりお金の勘定をしませんよね。
清 こう言ってくれるからいいんですよ。
「お金じゃないよね。生き物を育てるのはそうだよね」って言ってくれるからやっていける。
訓 大したことはしていないんですよ、私。
夫は一生懸命やっていると、本当に思います。
私はそれを見て、「可愛い」とか思っていますけど。
うちのお米を食べることは、とても贅沢をしているなと思います。
どこの農家も同じだと思いますが、うちのお米を美味しいと感じて食べられるのは、幸せですよね。
つ
ぼみの時に切ってしまうのはかわいそうだけど、育っているのを見るのは楽しい
訓 私は別にバラが良いっていうわけではないんですよ。
芽が出てくるとかいうのがとても好きなので…。
うちのこの部分だけとても荒れているんですけど、木が茂っていて草が生えていて。
これが好きなんです。
うちのバラも好きですけど、植物の芽が出てくるのはとても良いですよね。
清 バラも若いときに芽を摘むようなもんだよ。
良い時に切るわけでしょ、ねえ。
ハウスで咲かせてあげたほうがバラにとっては良いと思うけど、僕たちはその上前をはねていくんだよね。
訓 バラ園なので来る人がみな、バラを観たがるんですよ。
ハウスを見て、「全然咲いてない」とがっかりされます。
そりゃそうですよね、咲く前に切っているのだから。
みなさんの感覚とは、ちょっと違うかもしれません。
清 元気に育っているというのを実感しています、毎日。
それはとても楽しいね。
花も良いけど、芽が出てきた、だんだん育ってきた、葉っぱの色が良い色だ…それが毎日楽しい。
その反面、病気が出たり調子がわるくなったときの心の痛みは、経営者の感覚ではない。
経営者だったら、悪くなったら切り捨てちゃえばいいんだから。
経営的な感覚はないですね、だから大変だね。
延
命剤を使った栽培ではなく、バラの成長を楽しむ栽培を
清 バラは、蕾を僕たちが採ってきて、だんだん開いて最後には残念だけど、開ききって散っていく。
最近は延命剤という薬を使います。
ロックウール栽培によって水揚げが悪い、花もちが悪いということもあるけど、なんとかちょっとでも長持ちさせようと、延命剤を使います。
そうするとある程度咲いた状態で止まった状態で、花が売られたりします。
けれど咲かないとか咲いたままではなく、蕾から開いていく、その日々をできたら楽しんでほしいですね。
今はある程度咲いている花を切って、延命剤に浸けて、花屋も全部そういう処理をしています。
それはそれで、今の時代に合った進んだやり方だと思います。
だから僕は、そのバラを農家として生産者として語っちゃいけない位置に来ています。
その人たちに悪いでしょう、一生懸命良いものを作ろうとしているんだから。
僕は、そうじゃないでしょうと。
バラもそうだし、稲もそうだし、農業もアメリカのような大規模化ではなく、このへんで兼業でも良いから農業をするみたいな、そういう提案者でありたいですね。
一生のうちに一回でも良いから、種を蒔いて、芽を出して…それこそ田植えをしたり生き物を育てる体験、土を触る体験をしてほしいと思います。