第88回『サルシカ隊長レポート』2014年8月

サルシカ隊の隊長オクダと写真師マツバラのコンビは、今回津市白山から美杉町へ、名松線に沿って旅をすることに。
今回もいつもと同じく計画性ゼロ、確たるテーマも目的もない珍道中(笑)

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津市の美杉町へ向かっていた。
ハンドルを握るはこの取材の相棒である写真師マツバラ。
助手席で「あちーあちー」とウチワを仰ぐのは、サルシカ隊長ことオクダ、つまりワタクシである。

この日はエアコンをかけている車の中でも汗がにじむほど暑かった。

ワタクシとマツバラが暮らす美里町から美杉へ向かうには、白山町を抜けていく。
実りきった稲が一面に広がる中、現在は途中で折り返し運転をしている名松線と並走する道を走る。

と、その時、冒頭の写真にある看板が目に入ったのである。
こぶ湯。
実は三重県に移住というかUターンをしてきて早8年。
この道を通るたびにこの看板を目にし、なんとも気になる名前ではないか、どんな温泉なのか、ぜひとも一度行ってみたいなあ、と思っていたのだ。
が、あるじゃないですか。
近くなのに、チャンスはあったはずなのに、なぜか行けないところって。
ワタクシにとって、まさにここがそうであったのだ。

「マツバラくん、ちょっとそこを右へ曲がってくれたまえ」
「は? なんで? 今日は午後から天気が崩れるって言ってから先を急いんだほうが・・・」
「いいの! ワタクシはこぶ湯に入りたいの!」

あ〜また隊長のわがままがはじまったと言わんばかりに写真師は頭をがりがりかきむしり、ハンドルを切るのであった。

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こぶ湯は家城神社の敷地内にあった。
この神社の歴史を辿ると、その昔は諏訪神社であったということで、由緒あるところらしい。

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セミがなく境内に入り、お参りをさせてもらってから、奥へと抜けると、その看板はあった。

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その看板は、うっそうとした木々の間の細道を行けといっている。
こんなところに本当に温泉があるのだろうか。
人の気配は感じるが、タオルや風呂桶を持って歩いている人はいない。

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木漏れ日の中を歩く。
最近雨が多いせいかやぶ蚊が多い。
ついつい早足になる。
すると、写真師は「もっとゆっくり歩いて!そこで止まって!ああもう動いちゃダメ!!」などと意地悪をするのだ(笑)。

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途中で大きな箱を持ったお父さんがワレワレに追い付いてきた。

「温泉ですか?」
とわたくしが声をかけると、
「うん、汲みに来たんや、もう家のがなくなったでな」とお父さん。

「お風呂に入れるんですか?」
「違う違う、飲むんや。わしはもう何十年も水道の水を飲んだことがない。ずっとここのや」
「そんなに効能があるんですか」
「さあ、どうやろ。まあ今のところずっと健康やし、髪の毛もふさふさやしなあ」

と言いつつ、ワタクシの頭を見て笑った。
お父さんはこの近所に暮らしていて、きょうは奥さんとお湯を汲みにきたのだという。
奥さんはもう温泉を汲んでるらしい。

それにしても期待が膨らむではないか。
だって本当にお父さんふさふさだし(笑)。

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お父さんと話しつつ坂を下ると、雲出川の岸へと出た。
連日の雨でかなり増水しているが、なかなかの眺めである。
この流れを愛でながら湯に浸るなんて最高ではないか!

そして坂を下りきったところに小さな祠のようなものがあって、そこに温泉があった。
あったというか、チョロチョロ出ていた。

それがこぶ湯であった。

愕然としているワタクシを見て写真師が笑っている。
こやつはこぶ湯に入浴施設がないことを最初から知っていたのだ。

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とはいえ、
このこぶ湯はなかなかあなどれない温泉なのである。

神社の敷地内から湧き出るそれは昔から霊泉として地域の人から大切に扱われてきた。
チョロチョロと落ちる温泉を汲み取り、諏訪明神に祈願してから塗布するとイボが落ちたと伝えられている。
毎日たくさんの人が汲みに訪れるが、水は本当にチョロチョロしか出ていないので、待つ人の行列が出来るそうだ。
なので、火・木曜日は地域住民限定日とし、1人20リットルまでと制限している。


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しかも。
取水口に近づくと、ほのかに硫黄の匂いがする。
水がこぼれ出た周辺は、いかにも効能がありますって感じで変色している(笑)。

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水を汲んでいたお母さんがワタクシにも水をわけてくれた。
匂いをかぐとまさに温泉!
温度は生ぬるい水ぐらいの状態。
少し口にふくむと、うんうん、確かに飲用温泉の味だ。
かなりクセがあるが、角がないのでそのまま飲めなくはない。

お母さんとお父さんは、この水を煮炊き用に使っているそうだ。
ごはんもこれで炊いているらしい。

しかし。
活火山がないこの三重県津市で、こんな硫黄の匂いのする温泉が出ているのはなんとも不思議だ。
入浴は出来なかったが、来てみてよかった場所だ。

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「ここの温泉はかなり効能があると噂やけど、あれだけ匂いがあるとお茶とかコーヒーに使うのは無理やなあ」

ひと仕事終えた写真師は汗を拭きつつ元来た道をいく。

「きょうは人が少なかったけど、前きたときはずらりと人が並んでてさあ・・・」

入浴施設がないことを知りつつワタクシを騙した写真師の話を「コノヤロ」と聞きつつ、カバンに忍ばせた手ぬぐいの存在を忘れようと努めるワタクシであった(笑)



写真:松原 豊

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