酒の席でふと出た思い出話からスタートしたのが今回の駄菓子屋めぐり。
今から40年以上まえ、まだヒゲはなく髪の毛があったオクダ少年は、何十円かを握りしめ、駄菓子屋に通った。
そこで遊び、さまざまな体験をした。
駄菓子屋は子どもたちの聖地であったのだ。
あの懐かしい場所はまだあるだろうか・・・?
写真師マツバラと隊長オクダによるノスタルジックツアーがはじまった。
「駄菓子屋ですかあ、これは大変だなあ!」
この日の取材内容を説明する車内で、写真師マツバラはバリバリと頭をかきむしった。
銭湯とか村とか懐かしいもの、油断すると消えていってしまうのものが大好きな写真師にしては意外な反応であった。
「実はね、隊長。
まえに雑誌の取材で伊勢の駄菓子屋をまわったことがあるんですけど、軒並み取材拒否で苦しみまくったんですよ。
おじいちゃんおばあちゃんは全力で写真を拒否しますからね!
覚悟しておいたほうがいいですよ」
おいおいおい。
出発して早々に波乱含みなのである。
きょうの取材のまえにいろいろ情報を調べてみたが、そもそもホームページを持っていたり、SNSで情報発信をしている駄菓子屋なんてあるわけがない。
ほとんど情報は出てこず、連絡先どころか店がどこにあるかもわからないままであった。
つまりノーアポ突撃取材である。
しかも相手のガードは高いとなると、果たして今回の取材は隊長レポートして成立するのであろうか。
かなり不安になりつつも1軒目の店に向かった・・・。
その店とは、津市立修成小学校の裏手にある「オカモト」。
何を隠そう、ワタクシは修成小学校の出身なのである。
で、学校の帰り道、しょっちゅうこのオカモトに立ち寄っていた。
学校の帰り道に買い食いをするのは一応禁止されていたので、みんなノートや鉛筆、定規などを買いに行く名目で店へ行き、駄菓子を買ったりゲームをして遊んだ。
ワタクシにとっての思い出の場所、聖地である。
ちなみに酒の席で「あの店はまだやっているだろうか・・・?」という話になったのもここであった。
店の建物はそのまま存在した。
最近まで補修を繰り返してきたようで比較的新しい感じがする。
が、シャッターが下りていた。
午前10時。
休みなのであろうか。
実はワタクシの妹の子どもたちが修成小学校に通っていて、今でもオカモトで買い物をしているという話を数年前に聞いていたので、間違いなく今もやっているだろうと思っていた。
なつかしいオバちゃんにも会えるのではないか、今回の取材の幕開けにぴったりではないかと思っていた。
あとの調査でわかったのだが、オカモトは少し前に閉店したらしい。
お店を切り盛りしていた方が体調を崩されたとのこと。
残念・・・・。
もう少し早く来るべきであった。
うなだれつつ写真師と車に乗り込む。
もう本当にきょうの取材は成立しないんじゃないかと思った。
「ま、とりあえずもう1軒ぐらい回ってみますか」
写真師はめずらしくワタクシを気遣いながら、車を出したのであった。
続いてやってきたのは、三重県津市神納町、近鉄津新町駅の通りから1本入った旧伊賀街道沿いにある松田商店。
娘が小学生のとき、この近くのスイミングスクールに通っていてなんども送り迎えで通った道で、そこに子どもたちの自転車がたくさん停まっていたのを覚えていたのだ。
シャッターが上がっているが店内は暗い。
果たして営業しているのであろうか。
「こんちわ〜」と中へ入ると、店主のお母さんはいきなり警戒モード。
「何なん? テレビの人? 雑誌? もうウチはええで。もう私は79歳やで。もうすぐやめるんやで!」
顔を隠して中へと入っていく。
まあまあそこを何とか店内や買い物をしているところの写真だけでも食い下がると、
「そんなら勝手に撮りぃ〜、そやけど私の顔は絶対にあかんで、もう歳やで撮らんといて〜」
カメラを見てニコニコ笑っているのは店主のお友だち。
子どもたちが学校に行っている午前中はヒマなのでいつもここでお話を楽しんでいるという。
お母さんにお話を聞きつつ、買い物をすることに。
写真師が少しでもカメラをお母さんに向けると、「いやああああああ」と逃げていくので(笑)、ワタクシと駄菓子の数々を紹介。
まず懐かしいガムを発見!
四角い箱に丸いガムが4つはいったヤツ。
これよく食べたなあ。
あれ、でもなんか箱が長方形になっているような?
ガムも6つ入っているみたいだ。
値段20円。
私が子供の頃は5円だったような気がするが、記憶は定かではない。
「あ〜〜、これこれこれ!!!」
串に刺したカステラ。
昔はビニールになんか入ってなくてそのままだった。
くじがあって当たると大きなドーナツ型のカステラがもらえたのだ。
あの味は今でもよみがえる。
「おおおおおお〜、これ懐かしい〜!!」
今度声をあげたのは写真師マツバラ。
え、おれそんなの食べたことないけどなあ。
地域も世代もほとんど変わらないのに、懐かしいと思うものが違うのが面白い。
そして写真師とワタクシのふたりが共に叫んだのが、このヨーグルト。
あったねぇ、あったよぉ、これ!
フタにお店の印かペンで書かれている。
実はフタの裏には当たりがあって、他の店で当たったものをここに引き換えにくる人がいるらしい。
でもこれはメーカーが保障してくれるものではなく、当たり分もお店が購入して販売しているものなので、よその分まで交換すると損となる。
ただでさえ利益が薄い商売なので大変なのだという。
お母さんに話を聞くと、お客さんの数は激減しているという。
そもそもこの店の周辺で遊んでいる子どもたちがいない。
「それでもずっと通ってくれる人もおるし、これまでがんばってきたけど・・・もう歳やし、本当にもうそろそろやめようと思ってね・・・」
お母さんはもうすぐ80歳。
もう40年以上、ここで商売をしてきたという。
「最近の子どもたちは変わったなあ。
まず商品を手にとったら、気にするのは味とか色とちごて、賞味期限と添加物やもんなあ」
お母さんは笑いつつ続けた。
「確かにそれはそれでええことやけど・・・なんかねぇ」
お会計。
ザルに山盛り買ったつもりであったが、それでも400円ちょっと。
「これからあちこち取材にいくの? 暑いのに大変やねえ」
お母さんは優しい。
お店の住所、連絡先はあえて掲載しません。
興味のあるかたはぜひ自分で探して行ってみてください。
今回ご紹介するお店の方々は高齢の方が多いので、一度にたくさんの人で行かない、無理を言わない等のお気遣いをお願いいたします。
写真/松原 豊