FM三重『ウィークエンドカフェ』2015年7月11日放送

「今の旬はあわび。これからは岩がきもええよ」
海女小屋の中から海女さんたちの大きな声と笑い声が聞こえてきます。
新鮮な海の幸を焼いていただきながらのお話はとっても楽しい。

今回は『海女小屋 はちまんかまど』の野村禮子さんがお客様です。
野村さんは2008年、内閣府の「エイジレス・ライフ実践者」に表彰されています。
『エイジレス・ライフ』とは年齢にとらわれず、生き生きとした生活を送っている人のこと。
現在84歳。
仲間の海女たちとは80歳まで一緒に相差の海に潜っていました。

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■14歳からはじめた海女

昔は学校というと尋常高等小学校で、今でいう中学2年生くらいで卒業しました。
それが14歳の頃で、その年から夏は海女として潜っていましたね。
昔は高等2年生まで行かない人や、6年生で卒業した人もいて、その人たちは12〜3歳から潜っていましたね。
2〜3年生の頃から、夏休みになると泳ぎに行くのですが、みんなで「1・2の3!」で潜る練習をするんです。
底まで行って砂を掴んできたりしてね。
だんだん大きくなるにつれ、深いところに行って稽古するようになります。
だいたい5〜6年生の頃から、学校を早退してアワビを獲りに行くようになるんですけど、先生も怒らないんですよ。
戦時中なので。
体格の良い人が5〜6人で行っていましたね。
私も行きたくて親に頼んだのですが、
「磯もんを採るのはいくらでも稽古できるが、勉強するときにしとかないかん」
と叱られて。
身体も小さかったのもありますが。
体格の良い人は、寒さにこらえがきくんです。
私みたいに痩せて小さいと、すぐに身体に堪えて寒くなってきます。
その上、寒いと視力が落ちるので、アワビが見つけられなくなってくるんです。
今でこそウェットスーツを着て、太い人も細い人も1時間半くらい潜れるようになりましたが、昔は細い人から順番に上がってくる。
太っている人は潜っている時間が倍くらい違うので、採ってくる量も違う。
だから、海女は身体の大きいのが良いと言われていました。

私たちは1・3・9・11月の『磯祝い』といわれる日に、龍宮さんと呼ばれる場所に米とあずきを供えます。
海の魔物から自分を守るためにドーマンセーマンも海女着や道具に記します。
こうした信仰も、海女をするために継承していっているんですよ。

今の旬はアワビ、これからは岩がきも良いですよ。
冬になると、ナマコやサザエを獲ります。
夏は産卵期なので、サザエを採ってはいけないことになっているんです。

 

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■海面に浮上した時の呼吸調整音が『磯笛』

私は80歳頃まで潜っていましたが、この3年ほど潜っていません。
1時間半くらい潜っていると、足がこむら返りのような状態になってしまうんです。
海女漁自体も、潜ることのできる時間が昔とは変わって、1日に1時間半になりました。
海の資源を獲りすぎてはいけませんからね。
1回に潜る時間は、深いところを潜っていると1分くらい。
浅いところはすぐに上がってこられるので、またすぐに潜っていけます。
深いところは、海の底が静かなので、息も長く続くような気がしますね。

『磯笛』は上がってくるときの呼吸調整で、自然に出てくるんですよ。
普段は陸にいると出てきませんが、お寺の長い階段に登ったりすると出てくるんです(笑)。
海女仲間みんなで旅行に行って山に登ったり階段を歩いていたりすると、あちらからもこちらからも聞こえてくるの。
他所の人が驚いた顔でこちらを見ますよ(笑)。

 

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■ディスカバリーチャンネルで海女漁を放送!

日本の海女文化のドキュメンタリー番組で、私が潜っている様子がディスカバリーチャンネルで放送されました。
そのおかげで、世界中からテレビを見たというお客さんが来てくれるようになりました。
アメリカ、インドやスペイン、アルゼンチン、チリ・・・いろいろなところから来ています。
みなさんが一番喜んでくれるのは、海女たちの笑顔とおもてなし。
日本人はみんな貝が好きですが、外国の人は好きな人もいれば苦手な人もいます。
そのためか、人のふれあい、海女さんの笑顔の方を喜ばれますね。
海外のお客さんが来る際、大人数の時は通訳がつくのですが、家族旅行などでまったく言葉がわからないのに来る人もいます。
私たちも、よく来たな〜と感心しますよ。
香港の人が来た時は、泊まるホテルはどこなのかを聞いてもわからない。
でも「おいしい!」というのはわかるんです。

 

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■これからも元気に、『はちまんかまど』を楽しみます!

海女小屋の中は女子会。
昔は裸だったので、男性は絶対に入れませんでした。

陸に上がってきた時は、どこに何がいて、どのくらい獲れたのか・・・大きい声でみんな話しています。
獲物の獲れる磯場は、特に縄張りはありませんが、自分が見つけて取った所は、あんまり他の人は近づかないですね。
よそから泳いできた人には、何も言いません。

昔は船で海女漁に出る人が多かったですが、年とともにだんだん減っています。トマエ(船頭)役の男性が高齢化しているのと、若い人がトマエをせず、他の土地で他の仕事に就いてしまったりするので。
今では、私たちが潜っていた時の1/10になってしまいました。
相差から船で行く人は、10隻あるかどうか。

それにしても、今は今で楽しいですよ。
もしかしたら、若い時より今のほうが。
ここに来てみなさんとわいわい行っているのが、一番楽しい時間。
お客さんも楽しい人がたくさん来るので、本当に充実しています。
私の娘時代の昔話やら、昔の海女漁についてやら・・・そんなことをお話しできるのが、ここ『はちまんかまど』ですね。

気がつけば、『はちまんかまど』をはじめて11年目。
去年3月3日が10年目だったので、みなさんを連れて津市美杉町の『美杉リゾート』へで一泊。
明くる朝、宝塚歌劇団を観に行ってきました。
これからも『はちまんかまど』では、世界中からのお客さんをお待ちしています!