FM三重『ウィークエンドカフェ』2016年3月19日放送

今回は多気町古江からのお客様。
古い町屋の宿と喫茶、雑貨を扱う『つじ屋』の高梨清さん、英子さんです。
築180年の町屋を改装して1日1組限定の宿屋をされています。
以前は神奈川県三浦市で農業をされていました。
様々なご縁が重なり、多気町、旧勢和村での生活がスタートしています。

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金で解決する暮らしから離れ、丁寧な暮らし方へ

英子 これまでは人工的な暮らし、すべてお金で解決する暮らしだったわけです。
その時には気づかなかった、さまざまなことが、この地域にいるとすごく気づくんですね。
それがすごく気持ち良いというか。

 

 周りの自然が豊かだという、街との違いは大きいですよね。

 

英子 自給自足率って、何をどれだけ自給していれば買わずに済むということでしょう。
お金に頼らず、買わずに生み出すというのは、自分たちで作ること。
作る材料は買ったりしますが。
例えば、洋服1着作ったからといって、洋服の自給になるのかというと、生地を買っていたりするので、5割程度。
さらに例えばセーターだと、羊を飼って毛を刈って紡いで・・・これができれば自給率がかなり高いと思います。
その羊のエサも、自分たちが作った作物の残渣とかあげれば、さらに自給率が上がります。
しかし、買わないで作れば自給かというとそうではなく、薪ストーブにしても軽トラでガゾリン使って、どこかにもらいに行くわけですし。
その木を切るのも、のこぎりでやっていたらキリがないので、チェーンソーを使うし、そうすると燃料がいりますよね。
お金はとっても大切なので、大事に使おうという考え方です。

 

 要は「丁寧な暮らし」と言うんですかね。
お金で買うもの・・・醤油でも安いものがありますが、そういうのは簡単に作られているんです。
世の中に売られているものって、どうしてこんなに安いのかというと、簡単に作って香料をつけたり味をつけたりするからなんですね。
本当にちゃんと醸造しているお醤油なら、米と麦と塩があればできるんですが、2年はかかる。
醸造した醤油ではなく、普通に販売されている安い醤油は、混ぜあわせてしまえば1日でできます。
経済行動ではない丁寧な暮らしを心がけていくと、原点に戻る。
本来の姿に気づくというのが、とてもおもしろいです。
ただとても手間暇がかかります。
『スロー』は、早い遅いのスローではなく、『丁寧』という意味のスローだったんだなあと。
ただ、「楽しいばかりじゃ言っていられないじゃんか、経済活動も必要だよ」・・・という方からすると、変わり者と思われてしまいますね。

より人間らしい暮らしとは何かを考えた時に、食料だけではなく、火や水の自給も加えて、自然豊かなところで実践していく中で、気づくことが多く。
「原点はなんだ」ということに気づく作業が多いので、楽しくもあり、日々忙しくもあります。

 

然や地域の人たちと仲良くするために

 自然と折り合いを付け仲良くするのにはタイミングがあり、それを逸してしまうともう、そのタイミングが訪れない。
そのタイミングに合わせてことを行う必要があるわけです。

 

英子 さらに地域の人達たちと助け合わないとやっていけないです。
例えばお味噌は、自分一人でも作れますが、大豆は大きな鍋で一度にたくさん炊いたほうが、絶対美味しいんですよ。
お味噌作りも、みんなでワイワイやるから楽しくて。
1人でやってももちろん良いのですが、大勢のほうが美味しくできるんですね。
また、地域で助けあって楽しくいかないと、「やってらんね〜」的なものもあるかなと。
時には忙しすぎて参加できなかったり、グチりたくなることもありますが、忙しく地域活動をして暮らしていると、ずっと元気でいられるというか。
それが『元気で長生きできる秘訣』みたいなものかな、とこの地域の年配の方を見ると思います。

 

 お風呂とか入りに行くと、「そろそろじゃがいも撒いたか?」とか。
井戸端会議でも、みんな共通の話題があり当事者意識が持って、みなさん忙しい中でいろいろやっています。
味噌の話もそうですが、大勢で仕込むと、否応なくやることになるので、モチベーション維持に繋がるんですよね。

 

を通して昔の人の暮らしぶりを感じる

英子 この家は昔の日本人の家で、昔の日本人がどう暮らしていたのかを、家を通して垣間見ることができました。
それはこの家に来て、けっこう大きなことでした。
大工さんとの出会いが大きかったというのもあるんですけど、『病気の家を治す』というのがコンセプトで、在来工法で、土と石と木と・・・ほぼそれだけで家を修繕してもらいました。
で、治っていく過程でも、どういうふうに暮らしていたのか。
私たちが譲っていただいた、前の暮らしよりもっと前の、この家が建てられた180年前にはどんな暮らしをしていたのか、どんな間取りだったのか。
どこまで180年前にさかのぼれるかわかりませんが、「これだけ煤で真っ黒くなっているこの場所は、180年前からあったはずだ」とか・・・この家を通して、昔の人たちの暮らしへの興味が湧いてきました。
昔の人の暮らし方、価値観、考え方・・・などを知りたいし経験したいし、引き継げものは引き継ぎたいと考えるようになっています。

今、私がが気になることは、70代の人たちから次の世代へ、いろんなことが引き継がれていないこと。
大きなお祭りなどを残していくことももちろん大事ですが、それ以外の小さなことでも受け継がれなければいけないことがたくさんあるはず。
手放されていくことがとても残念。
だから、引き継げなくても知っていたいですね。

 

元の人からの応援を常に感じる

英子 本当に、地域の人が、何か力になってくれようとしているのを感じます。
普通にコーヒーを飲みに来たりしてくれるんですよ。
作業の合間に「コーヒーくれ〜」みたいな。
男性は男性同士、女性は女性同士が多いですね。
ご夫婦で来られる方もいますし。
よく、近所の人は遠巻きに見ているだけで近寄って来ない、という話を聞きますが、ウチは近所の人が来てくれます。
ここは農家民宿の営業許可ももらっているのですが、近所の人は宿のお客さんにはなりませんよね。
だけど、近所の家にお客さんが見えた時に、宿泊先として『つじ屋』を紹介してくれたりします。
あとは立梅用水の保存と管理をしている方が、研究や視察の方、仕事で来られた取引業者の方などを、『つじ屋』に宿泊するよう紹介してくれたり。
ご近所の方は宿としての直接のお客さんにはなりませんが、喫茶として寄ってくれるだけでなく、宿のお客さんを紹介してくれるありがたい存在です。
『農家民宿』なんてお客さんが来るのかなと心配していたのですが、そういう形で少しずつお客さんが来るようになりました。

そもそも喫茶営業をするつもりはあまりなかったのですが、近所の人が「なんだお前んとこ、コーヒー飲めるのかよ!」とかそんな感じで(笑)。

 

 昨年11月8日に、地域の人達のために内覧会を行ったところ、「お店まだやらないのか」みたいなことを言われたんですね。

 

英子 内覧会のご案内には「喫茶はしません」と書いたんですけどね(笑)。
ここでご飯を食べたりとかやってくれないのと、近所の人に言われて、じゃあやります、と。
10人くらいの新年会を『つじ屋』でやるようご依頼いただいて。
小規模な宴会など、ご用命くださったりとか。
地域の方々のあたたかさは、ほとんど毎日感じています。
毎日1組ぐらい、この集落の方が徒歩で来てくれるので。
みんな徒歩で来られるので、夏になったらビヤホールもやりたいですね(笑)。