FM三重「ウィークエンドカフェ」2011年9月3日放送

今回のお客様は、伊勢のかまぼこ屋さん『若松屋』の美濃(みのう)松謙(まつのり)さん。
伊勢の河崎で明治の頃からずっと商いを続けていらっしゃる老舗のかまぼこ屋さんの四代目です。
若松屋の歴史やかまぼこのルーツなどから、食文化について、さらには海の環境について・・・幅広くお話をうかがいました。

■『若松屋』さんは創業100年以上とのことですが・・・

元々は、伊勢若松で魚屋をしていたそうなんですが、兄弟で伊勢河崎に来て、かまぼこ屋をはじめたそうです。
それで屋号は、元々いた土地の地名からとって『若松屋』。

江戸時代から伊勢河崎にはかまぼこ屋さんがあったらしく、創業した明治38年にも、まわりにけっこうかまぼこ屋があったようですが、今では残っているのはこの『若松屋』だけになってしまいました。

県内全体でも営業しているかまぼこ屋さんは30~40軒と、大きく減っているようです。

■かまぼこは何故あの形なんでしょう?

最初は棒に巻いて・・・その形が「蒲の穂」に似ているから「蒲鉾」と言われたわけなんですね。
それが何故板に付いたか・・・私も調べたんですが、はっきりとしなくて(笑).

ただ調べていると、倉敷のほうで薄い板に中華まんみたいな感じで貼り付けてあるかまぼこがあるんですよ。
そのあたりから、和食は見た目も美しくということで進化し、今の形になっていったのでは・・・と考えています。

■大学でもかまぼこの研究を?

大学時代は文系の法学部だったんですが、全然面白くなくて(苦笑)
いろいろな学部をまわっていて、たまたま農学部に行ってみたら「水産学科」というのが目に付きまして。
ちょっと興味があったのでのぞいてみたら、その中の「水産利用学研究室」というところで、かまぼこが研究テーマになっていたんですよ!

びっくりしました!
家業のかまぼこが、大学の研究テーマになるなんて!って(笑)

そこで学内試験を受けて、大学2年から農学部に編入して、かまぼこの研究に没頭しました。
例えば、「どうしてかまぼこは固まるのか」とか。
逆に、固まらなくするたんぱく質・酵素(阻害酵素)の追求なども研究しました。

それにしても、かまぼこは1000年以上前からあるといわれていて、つまりその頃から研究され尽くされてきて、今があるわけです。
先人の知恵というのはすごいですね!

そして大学を卒業後、よそのかまぼこ屋さんで修行をしたのち、『若松屋』に入社したんです。

■『食文化研究所』での箸作り体験とは?

1997年くらいから、かまぼこづくり体験を行っていまして、たくさんのお客さんに来ていただいています。
しかしもっと「体験」を進めて行きたいのと、日本の食文化を研究したい・・・との思いから『食文化研究所』を立ち上げました。

今の日本人には、ものを食べるときの感謝の気持ちがないですよね。
ボリューム重視、値段重視で、その食べ物について、思いをはせないんですよ。
例えば、このかまぼこがどういう経緯を経て、作られているのかとか。

発酵や醸造、塩漬けなどなど・・・豊富な日本の食文化を、もっと発信したいんですよ。するには、何が良いかと考えまして。

そのためには、研究所で何か体験を・・・と考えたところ、『箸』に辿り着きました。
日本人が食べるということは、箸を使うということなんですね。

最初は手で食べていた日本人が、いつから箸を使ったのか・・・など、箸の歴史も研究しています。
そのなかで気づいたのですが、基本的に箸だけを使って食事するのは、日本人だけなんですよ。
中国や他のアジア地域でも箸を使いますが、麺類以外は蓮華やスプーンを使うことが多いんです。

また、日本人は家族で箸を共有しないのも特徴です。
もちろん、ヨーロッパも、ナイフ・フォークは共有ですよね。
自分の箸を持つことが、日本の食文化なのかな、と。

そんな考えから、『食文化研究所』では、「箸作り体験」を行っています。

■海と資源を大切にするための活動をおこなっているそうですね?

はい。
ひとつめは、三重大学大学院の協力で、あまり使われていない魚をかまぼこできないか、と研究中です。
使われないのにはそれなりに理由があるんですね、プリプリしないとか固まらないとか。

しかし技術で、原料として使えるようになるのでは、と考えています。
粘度にはPh値が関係してくるんですが、すり身は中性じゃないと固まらないんですよ。
あまりかまぼこに向かない赤身は弱酸性・・・ほんの0.5~0.6の差で、大きく違ってしまうんです。
そのバランスを変えることで、捨てられる魚の悪いところを補って、かまぼことして使えるのではないか、と。

もうひとつは、数年前から「海の博物館」と行っている『海づくりプロジェクト』です。
活動としては、近隣市町村小学校の方に、伊勢湾に住む魚のガイドブックを配ったり、放流をしたり・・・。
海の生き物を探し、稚魚などを見つけることで、「こんなに近い海でもいっぱい生き物がいるんだよ」ということを子どもたちに知ってもらっています。
我々、海の産物を使って暮らしている者にとって、海が悪くなっていくと大変なことになりますからね。

「日本人が日本の食のすごさをわかって欲しい。目の前の食には歴史があり、祖先が作ってきたもの。
 もう一度食の大切さを見直しませんか?」

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