「ふれあい」Vol.32 2011年11月号

地域全体で取り組む獣害対策。
近年、全国的に問題となっている獣害。
サルやシカに田畑を荒らされる獣害に悩まされていた大紀町金輪地区では、昨年から住民と自治体、大学などが連携した対策を行い、大きな成果を上げています。




金輪区長 辻原 雄司(つじはらゆうじ)さん


■獣害対策の取り組みを近隣にも広めたい

金輪地区では6~7年前から畑がサルやシカに荒らされ、困っていました。
畑を柵で囲い、山と農地の間に草木のない緩衝帯を設けるなどの対策を試みましたが、サルは柵を乗り越えて入ってきます。

良策はないかと考えていたとき、三重県、大紀町、三重大学などの産学官連携による住民主体の「獣害につよい集落づくり~モデル地区~」事業の存在を知り、住民の意見を聞いたところ、多くの賛成が得られたため、参加を決断しました。



1年間で5回の勉強会を開き、獣害対策に取り組みました。
まずはじめに、地域を歩いて実際の被害状況を確認し、「獣害マップ」を作りました。
マップにエサ場となっている畑の位置やサルの侵入経路などの情報を集約しました。

また、「獣害対策5箇条」を実践するにあたって、現状の課題の整理ができ、解決に向けた糸口が見えたような気がしました。


【獣害対策5箇条】

● 「エサ場」をなくす
  ・収穫残渣や不要果樹、稲刈り後のヒコバエ等を除去する
● 隠れ場所をなくす
  ・耕作放棄地やヤブは、獣にとって、安心できる場所
● できる限り囲う
  ・防護資材の特徴を知って囲えるところは囲う
● 追い払う(猿)
  ・人里は怖いところ、人間は怖い者と覚えさせる
● 適切に捕獲する(猪、鹿)
  ・加害している人里近くに存在する




多くの住民に参加いただけたことで、あらためて獣害は農家だけの問題ではなく、地域全体の問題であるという意識共有ができました。

具体的な獣害対策として、柵の適正な設置方法を学ぶため、参加者全員で簡易防護柵「猿落(えんらく)くん」を設置しました。





また、ロケット花火鉄砲を作り、追い払いの訓練を行いました。
この二重の対策により、大きな効果を得て、獣害はほぼなくなりました。
被害にあい、野菜づくりを放棄した畑は人が入らないため荒れ、サルが侵入しやすくなる悪循環に陥っていましたが、作付けが復活しました。

さらには、昨年から週二回(木・日)開催している朝市での野菜販売が農家の意欲を高めています。
今後は朝市の規模を拡大していきたいです。





最後の勉強会では獣害対策の行動指針として「地域ルール」「年間行動計画」を作成したので、それを基に今後も取り組んでいきたいと考えています。
また、金輪地区が他の地区の良いモデルになればうれしいですし、近隣地区とともに取り組むことで、地域を越えた結びつきや朝市の活用が地域の活性化につながっていけば、と考えています。


■地域ぐるみで追い払う意識が大事


瀬古 悦生(せこえつお)さん

私は、ワナで捕獲した複数のサルに発信器を取り付け、群れの規模、個数、移動経路を含めた生態情報を収集・把握しています。

移動経路とサルの好物などの生態がわかれば、エサ場をなくすこともできます。
サルの通り道はほぼ決まっているため、田畑の出入口への対策が有効です。

しかし、サルを知ること以上に大事なことが皆さんの自治意識です。
他人の畑は関係ないというのではなく、地域全体で追い払う意識が大事です。
柵や鉄砲はあくまで手段にすぎません。
地域の団結がなにより大切だと思います。



■獣害がなくなって、野菜づくりの楽しみが復活


左/辻原 希代(つじはらきよ)さん  右/辻原 登美(つじはらとみ)さん

大事に育てた野菜の収穫のタイミングを狙ってサルが荒らしてしまうので、野菜づくりもあきらめかけていましたが、「猿落くん」設置とロケット花火鉄砲の効果で畑への侵入はほぼなくなりました。
勉強会で学んだことが実際に成果として表れており、大変満足しています。
今では朝市で売るための野菜づくりが楽しく、地域全体も生き生きとしていますよ。



■朝市では採れたての新鮮な野菜が大人気


左/瀬古 六月子(せこむつこ)さん  右/瀬古たけ子(せこたけこ)さん


以前は小さな無人販売所でしたが徐々に大きくなり、今では魚、惣菜など品目も増加しています。口コミでお客さまが増え、「朝市のものは新鮮でおいしい」という声をいただくとうれしくなります。
今後も朝市を皆さんが集うことができる、魅力ある場所として提供し、地域全体を盛り上げていきたいと思います。

大紀町役場 農林課 課長補佐 鳥田 正彦さん
獣害対策には、地域の皆さんが主体となって取り組む意識が大切です。
皆さんで作った地域ルールに基づき、継続的に進めていただきたいと思います。