FM三重『ウィークエンドカフェ』2020年3月14日放送

昭和の時代、鳥羽の台所と言われた町に『海童工房 魚寅』があります。
店先で売られているのは、燻製と発酵食品。
代表の杉田公司さんが手間ひまかけて作っています。
工房の中には、大きな燻製窯があり、牡蠣やたこ、たいらぎ貝など鳥羽の海の幸が燻されます。
スモークすることでさらに旨みが増していきます。

父が作った魚屋を改装して燻製を始めた

私が生まれたのは昭和34年。
その頃は人口が多かったです。
私が小学校の頃も子どもがたくさんいました。
私が生まれた年に、お祖父さんが小売の魚屋さんを作りました。
しかし私が高校を卒業する頃、お祖父さんが亡くなり、それから十何年かずっとシャッターを閉めていたんです。
私も外に出ていた時期がりましたが、なんとかしなければならないとにっちもさっちもいかなくなった時期がありまして、誰もいないここに戻ってきて考えていたところ、この地域の牡蠣や海産物を燻製にしようと思いついて試作をし始めました。
今から24〜5年前の話です。
それから今まで、ずっとここでやっています。
今の形の加工所・・・半分を売店に半分を加工所したのは、24〜5年になります。
特に師匠がいたり学校で学んだわけではなく、本を読んで参考にして、試行錯誤しながらやってきました。

 

レーバーを付ける液にこだわり、窯は手作り

燻製ですから、もともとは保存効果・殺菌効果から始まったと思います。
しかし最近では冷蔵庫もあるし、傷むことはないと思います。
むしろ煙で燻してフレーバーを付ける、そういう意味では個性を出すためにお店によって、また商品によって木の香り(ソミュール液)を変えたり、塩の塩梅、ハーブとの組合わせを変えたりします。
それによって、そのお店の味が決まってくるし、お店によっての違いも出ると思います。
初代の窯は小さなステンレス製で市販されているもので、小さなものを作っていました。
しかし受注が増えるととても追いつかなくなり、以降は自分で作ってみようと、初期のものより7倍くらい作ることができるものをセメントを捏ねて、レンガを積んで作りました。
それで今も、燻しをしています。
牡蠣やたこ、たいらぎ貝など鳥羽の海の幸を燻しています。
スモークすることでさらに旨みが増していくんですね。

 

みを追求したら発酵食品にたどり着いた

牡蠣の燻製などを作っているときでも、どうしたらもっと美味しくなるのか、改善策はあるのか・・・などを常に考えています。
お客さんの声を聞きながら。
そのうちに『旨味』というものに強い関心を持つようになりました。
5〜6年前にユネスコの文化遺産で日本の和食、お米や発酵食品、出汁がクローズアップされました。
塩麹などに若い方が関心を持つようになってきた、ちょうどその頃だったと思いますが、『旨味』について考えたときに『発酵食品』に注意をひかれたんですね。
それからはもう試行錯誤しつつ、発酵食品を試作し、今はようやく製品化できました。
東南アジアでは『ナンプラー』と呼ばれ、東北地方などでは『イシル』『しょっつる』などと呼ばれている『魚醤』を、地元産の海産物で塩漬けにして発酵させた調味液として製品化。
南伊勢町産のカタクチイワシを使って塩漬けにした『アンチョビ』も開発しました。
それ以前は、日本海側に未だに文化が残る『ぬか漬け』もしてみたりしました。
まずは仕入れて食べてみて、そこに米ぬかなどを入れて1年間ほど発酵させたものをいっとき作っていました。
1年くらいかけると、発酵が進んで『旨味』のもとであるアミノ酸が出てくるものですから、ある程度『手塩にかける』という感覚があるんでしょうね。

 

鮮な海の幸にアンチョビや魚醤油をプラスして料理を楽しんでほしい

鳥羽は鮮度の良い海産物がたくさん獲れます。
鮮度の良いうちに市場に出荷されるわけですから、わざわざ1年間かけて発酵して旨味を出すとか、燻すとか、特に必要ないんですよ。
捕れたての美味しいものをバーンと出せばいいんですから。
もちろん旬の美味しいものは今でもたくさん獲れます。
でも一方で時間をかけて発酵させた旨味で誕生したのがうちのアンチョビや魚醤です。
鮮度の良い美味しいものを、それらの発酵食品で調理したらこれはもっと美味しくなると思いませんか?
鮮度の良いものが獲れる地元でも、お料理として料理屋さんなどでも使ってもらえたら嬉しいですね。
例えば今までみなさん、お料理屋さんで旬の美味しいものを食べてきましたが、そこにこれを旨味調味料として使ったら、地元の料理がグレードアップすると思います。
これをなんとか展開していきたいと思っています。
発酵食品を食べながらお酒を飲んでいると、どんどんイメージが広がっていって、楽しいですよ!