第22回「サルシカ隊長レポート」2011年12月

熊野応援シリーズ第4弾!
1日1組限定の天空の宿で一夜を過ごしたサルシカ隊長と写真師マツバラ。
二日酔いの頭を抱えつつ、でこぼこコンビの熊野旅2日目がはじまった!


朝、屋根を叩く激しい雨で目を覚ました。
天気予報は確かに雨だったが、こんなに降らなくていいじゃないか、今日もいろんなところに取材にいくのに・・・などと考えつつ布団から起きだすと、
どんよりと頭が重い。
完全に二日酔いである。



「なぜワタクシはここにいて、なぜ頭がどんよりと重く、そしてなぜ今日もあちこち行かねばならぬのかね」

ワタクシは、カメラを構えつつもどんよりとしている写真師マツバラに問うた。

「ボクこそ、なぜいまここで写真を撮っているのか、誰かおしえて欲しい・・・」

ま、こんな調子で2日目の朝は始まったのである(笑)。

隣の母屋へいくと、大阪のお母さんがすでに来ていて、朝ごはんの支度をしていた。
昨夜飲み散らかしたままの部屋はすっかりキレイになっている。

「すいません、散らかしっぱなしで・・・」
「ずいぶんお飲みになったみたいですけど、朝ごはん大丈夫ですか?」

うーむ、どうだろう・・・と思っていたが、朝ごはんが匂いと共にやってきたら、すぐさまお腹がグウと鳴った。



朝食は、あまごの一夜干しを焼いたもの。
あまごの甘露煮。
冷奴にお漬物。
そして茶粥。
赤倉でとれたお茶で炊いてあるそうだ。



この茶粥のあっさりとした味わい、そしてお茶の香りが、まさに二日酔いに効く。
生き返った!
ワタクシと写真師は4杯ずつぐらいおかわりした(笑)。



食後に出されたのが、赤倉茶の紅茶。
大阪のお母さんが手揉みして発酵させたものだという。
紅茶だけれど、味わいの向こう側に日本茶がいる(笑)。

緑茶も紅茶も同じお茶っ葉でつくるというのは頭では知っていたが、今回は舌で思い知った。
うん、これは正しい勉強だ。

ちなみに、この朝食と昨夜の夕食、そして1泊させていただいて、なんと大人ひとり6000円である。
すさまじく山の中の宿は、すさまじく良心的で格安の宿であった。
しかも、何もかもがうまいのだ。
宿を出て、山里民泊あかくらのオーナーである中平さんが経営しているあまごの養殖所へいく。
歩いてすぐのところである。



中平さんがおじいちゃんから引き継いだという、あまごの養殖所「赤倉水産」。
実は中平さんが継いだとき、ここには数千万単位の借金があったそうだ。
一度は名古屋の会社に勤めた中平さん。
覚悟を決めて故郷に戻り、イチからがんばろうと思ったら途端、思い切りのマイナスが発覚したのである。

が、その借金もすべて完済。
そして自分の商売だけではなく、地元のために、地域のためにと活動をはじめた。
中平さんは地域活性化のNPO法人の理事をつとめる他、地域のボランティア活動にも積極的に参加している。
そして山里民泊あかくらやあまご屋も採算度外視で経営し、自分の生まれた土地を守ろうとしている。



中平さんが開発したあまごのカラスミ。
味が濃厚で非常にうまい。
が、とにかく歯にくっつく。
キャラメルやアメちゃんの比ではない。
それをどうクリアするかが今後の課題であるという。
しかし、歯にくっついたカラスミをそのままナメナメしてたら、いくらでも酒が飲めるということも考えられる(ないですね。笑)。



ここで中平さんはほぼひとりで仕事をしている。
10万匹のあまごを育て、干物をつくり、加工しているのだ。



ワタクシも一夜干しのパック詰めを手伝わせてもらった。

実はこの赤倉も、台風12号によって大きな被害を受けていた。
あまご養殖の水槽は増水した川の流れに飲み込まれて、2万匹近いあまごが流出。
しかも残ったあまごは泥が入った水槽で何匹も死んだ。
それほどあまごは環境の変化、ストレスに弱い魚なのである。



「まあ損害は何百万ってとこやろなあ・・・まあしかし、この赤倉の自然にあまごを育ててもろてるんやから仕方ない。文句は言えんわなあ」

中平さんはあっけらかんとして笑う。
そんな彼も、台風12号のときは大変な目に遭っている。



「実は一週間近くここに閉じ込められたんさ。川が増水してえらいことになって、ここまで来る道は完全に水に浸かっとったでなあ。
ワシはまあなんともなかったけど、携帯も通じやんところやし、電話も不通になったから、町におった家族たちが大騒ぎになってねぇ~」

笑いつつ話していたが、当時はニュースになったほどであった。
自衛隊のヘリがやってきて、中平さんの生存を確認。
家族のみなさんは胸をなでおろしたのだという。

しかし道が寸断された1週間。
完全な孤立化であった。

「まあ、幸いここにはいっぱいあまごがおるしな。コメもラーメンも置いてあったで、まあ本人はのんびりとたもんさ~」

中平さんは声をあげて笑った。
この人は強い。
そして頼れるおっちゃんである。

いろんな人が、このおっちゃんを頼ってやってきて、そして熊野のために動いている。

「大変なんはこれからや~・・・」

民泊も食事処も、台風後、極端にお客さんが減ったという。
いま、道もつながり、少しずつお客さんが戻りつつある。

「ま、いろんなことしてがんばっていきますんで、どうぞよろしく!」

最後に中平さんはそう言って、分厚い手でワタクシの手を握った。