第117回『サルシカ隊長レポート』2014年12月

米の豊作を神に感謝し、来年の五穀豊穣を祈って行われる熊野育生町の「どぶろく祭り」。
どぶろくが飲み放題でいただけると聞いて、サルシカ隊長オクダと写真師マツバラのふたりはウヒヒと浮かれつつ取材へ向かったのであった。

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「隊長!隊長!隊長!」

ある日。
サルシカ秘密基地のトレーラーハウスでまったりとコーヒーを飲んでいた午後。
この隊長レポートの撮影を担当している写真師マツバラが騒々しく飛び込んできたのである。
なぜかこの男はいつもハイテンションで騒々しい。

「ああ、うるさい、隊長は一回言ったらわかる!」
「あはははは、はいはいはい、隊長!」
「ハイも一回!」
「きびしーなあ、もう!! あははははは!」

万事がこの調子である。
が、写真師が持ってきた情報はすばらしかった。
熊野市の育生町で毎年11月23日に大森神社の例大祭が行われ、そこで神に捧げる「どぶろく」が参加者にふるまわれるのだという。
どぶろく祭りである。

前回の「津ぅのドまんなかバル」に続いて、また酒を飲む仕事である。
取材と称して飲んでばかりでいいのか。
世間の皆々様に申し訳がたたんのではないか。

というわけで、われわれは5分ほど言い訳を考えたが、さっぱり思いつかなかった。
で、開き直って行くことにした(笑)。

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紀勢道が尾鷲までつながって、熊野は本当に近くなった。
紀勢道がないときは、三重県内であるにもかかわらず、津から車で4時間以上もかかった。
もはや1泊2日の小旅行であったのだ。
それが高速道路のおかげで2時間ほどで着いてしまう。
便利になったものだ。

熊野市街から奥深い山へと入り、以前紹介した赤倉を通り過ぎる。
で、ふと視界が開けたところでドドンと出てくるのが写真の大丹倉である。

大丹倉は高さ300m、幅500mにも及ぶ大絶壁。
三重県指定文化財となっている。
ここは昔から苦行を行う修験者たちの聖地であったと言われている。
さほどに険しいところだ。

その大丹倉の脇を通りぬけ、ようやく人里へと入る。
そこが目的地の育生町である。
普段は静かな集落であろうが、この日はたくさんの車が行き交い、神社へ向かう人の姿が目についた。

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大森神社は鎌倉時代初期の建保元年(1213年)の建立。
長い歴史を持つところだ。
写真師とワタクシが大森神社に到着すると、すでに神事が行われていた。

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米の豊作を神に感謝し、来年の五穀豊穣を祈って行われる祭礼で、この日のために1ヶ月をかけて神社総代がどぶろくを仕込む。
そして神に捧げたあと、参加者にふるまうのである。

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そしていよいよ隣の公園に移って、どぶろく祭りのはじまりである。
どぶろくをいただくには専用の器を買わなくてはならない。
紙コップは500円、陶器の器は1000円。
これを購入さえすれば、もうあとは飲み放題なのだ。

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どぶろくのふるまいは正午からで、あと30分ほどの時間があった。
が、我慢できないのんべえたちは自宅から持ってきた缶ビールなどをすでにプシュッと開けて飲んでいる。
ワタクシと写真師は広場を取り囲むように並んだ屋台を冷やかしにいった。
屋台をやっているのは婦人会など地元のみなさんばかり。
もともとこのどぶろく祭りは地元の人が楽しむだけのものであったが、最近ではよそから来た人をもてなす祭りにもなっているらしい。
手作り感いっぱいでなんとも微笑ましい。

ある屋台で生ビールが売っている。
どぶろく祭りで生ビールを売るとはけしからんではないか!!
どういう了見なのだ!!
販売している若者に、ワタクシはそのあたりを鋭く追求したのである。

すると、どぶろくばかりじゃ飽きるし、すぐに酔っ払ってしまうので口直しにビールがいいのだ、すごく売れるのだ、という。
なるほど〜。
というわけで、われわれはどぶろくの前にビールを買ってしまい、カンパイしてしまうのであった(笑)。

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どぶろくのふるまいがはじまる直前ともなると、会場はこんな状態!
育生町の人口を大幅に上回る人で大賑わい。

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そして神社総代のあいさつのあと、いよいよふるまいスタート!!!
係の男性が、米粒がしっかりと残った濃厚な酒をどろりどろりと器についでまわる。
その途端、あちこちでカンパイがはじまる。
すさまじい勢いではじまったカンパイウェーブって感じだ(笑)。

ちなみにどぶろくは、濃厚ではあるものの、味は極めて辛口でさっぱり。
ほとんど酸味もない。
が、ガツンとくるほどの強さ。
聞いてみたところ、アルコール度数は17度もあるという。
飲みくちがいいのでついごくごく飲んでしまうが、これは危険なお酒だ。

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それにしてもなんだろう、この祭りの心地よさは。
みんな、豪華なお弁当を持ち込んで、ブルーシートに座ってどぶろくを飲む。
話し、笑い、そしておかわりを叫ぶ。
まさに村の祭りだ。

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どぶろくを地元の人とワイワイ飲んでもう幸せだ〜という状態であったが、そうだそうだ、きょうは取材であった。
写真師からどぶろくを取り上げ、カメラを持たせて取材に向かう。

そして神社総代のおひとり、写真の西さんにお話を聞くことができた。

「今回どれだけのどぶろくを用意されたんですか?」

「えっとね・・・243リッター」

なんですとぉ!!!
1升瓶に換算すると、135本!!!
それを今日1日で飲みきってしまうのだという。
なんともすさまじい祭りだ(笑)。

どぶろくは、3人いる神社総代が1ヶ月前から仕込んでつくる。
1日に3回温度チェックをかかさず、手間ひまかけて酒を育てるのだ。

ちなみにどぶろくを勝手に作ると犯罪である。
この育成町は国から特別な許可を得てどぶろくづくりをしている。
つまり「どぶろく特区」というやつ。
全国に100を超える特区があるが、三重県ではここ育成町だけ。
貴重な文化遺産なのである。

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広場へ戻ると、会場はさらにヒートアップしていた。
広場が酒の匂いで包まれている。
息をしているだけで酔っ払いそう(笑)。

ちなみに。
今回の取材には21歳の青年にドライバー兼アシスタントとして同行してもらっていた。
だから安心して写真師とワタクシは飲めるのだ。
しかも仕事の合間に「おい、ツマミを買ってこい、焼き鳥がいいな」などと言い出す、とんでもない大人であったことをここで告白し、21歳の将来を少し憂うのである(笑)。

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ステージでは、婦人会の踊り、カラオケと余興が続いていた。
後半になると、お兄ちゃんが歌うカラオケでお母ちゃんたちが踊りはじめた。
もう自然と身体が動いてしまう感じであった。
ああもうと頭を抱えるお父ちゃんたちの前で、お母ちゃんたちはヒラヒラ、ヒラヒラと舞った。
もはや総酔っ払い状態だ。

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酔ったお母ちゃんたちは怖い。
どぶろくをふるまっていたお父さんたちにも飲ませる。
つまみを差し出す。
で、お父さんが一口つまみを食べると、またどぶろくをグイグイ飲ませるのだ。

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結果、酔いつぶれたお父ちゃんたちが死屍累々と横たわる。
寒かろうと新聞紙を上からかぶせるところがお母ちゃんの優しさであるが、だったらそんなに飲ますなとワタクシは言いたい(笑)。

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が、午後3時になって酔いつぶれたオヤジ達は叩き起こされ、ブルーシートが片付けられる。
誰も文句を言わず、せっせとそれを手伝う。
そう、祭りのクライマックスがはじまるのだ。

もちほり!

お餅のふるまいである。
なぜかみんなやたらとテンションが高いのである。

「よっしゃ〜!!!」
「はよ投げよ〜、こらはよせんか〜!!!!」

そして「もりほり」がはじまると、もはやそこは阿鼻叫喚。
餅を求めて人がうごめくのだ。
走るのだ。
わめくのだ。
ワタクシはこんなに盛り上がる「もちほり」を見たことがない。
あまりの凄まじさに怯えてワタクシは参加できなかった(笑)。

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戦い済んで日が暮れて。
疲れ果てた地元のひとたちは身体を引きずるように家へと帰る。

「餅とったか〜」

あるばあちゃんに言われて首を横に振ると、

「だらしないのぉ、ほれこれ持ってき」

と、人数分の餅をくれた。
イノシシのように走って餅を拾っていたおばあちゃんのどこまでも優しい笑顔。

たぶんワタクシは来年もこの祭りにくる。



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写真/松原 豊

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