FM三重「ウィークエンドカフェ」2012年5月12日放送

今回のお客様は鈴鹿にある『東海醸造株式会社』蔵主(くらぬし)の本地猛さんです。
東海醸造の創業は江戸元禄年間、300年以上も前からこの鈴鹿の地で、味噌やたまりを作ってきました。
平成の時代に入っても、天然醸造にこだわっています。

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■たまり・味噌は三重県の食事情に合っている!

三重県は美味しい物が多いですよね。
縦長で北から南まであり気候も違ったり、西には山があって東には海があって…。
山の幸、海の幸、里の幸…採れるものがたくさんあります。

そしてその食材たちを支えているのが、たまり・味噌。
北は貝のしぐれ、津はうなぎ、松阪はワールドクラスの松阪牛をすき焼きや牛しぐれで。
南に行くと、鳥羽を含めて獲れるおいしいお魚を、お刺身で、付けだまりで食べてもらって。
さらに紀伊長島や熊野で作られるミリン干しも、お醤油が使われているんですよ。

三重県の食事情にうまく、たまりとか味噌が乗っかっているんですね。

ちなみに醤油とたまりの違いは、小麦の割合です。
醤油は大豆と小麦が5対5。
たまりは、大豆が8で小麦が2。

でもウチが作っている昔ながらの本当のたまりは、八丁仕込みのたまりで大豆が100%。
大豆と食塩から分離されたたまりが、本来のたまりなんですよ。



■冬は鈴鹿おろし、夏は伊勢湾からの風がおいしい味噌を作る

『東海醸造』のあるここ鈴鹿は、冬は『鈴鹿おろし』と呼ばれる冷たい強風が吹き噴き、夏は伊勢湾からの湿潤な空気が入ってきます。
こうして、夏の発酵と冬の冬眠を3年4年繰り返すことによって、ようやく美味しい味噌が完成するわけです。
「果報は寝て待て」…黙って出来上がるのを待ってろっていう状態ですね(笑)

今、ウチで出している味噌は4年半ものです。
温度管理している店では3ヶ月~半年で出せる味噌もあるそうですが、ウチの蔵は天然。
エアコン一切なし。これは人間にとっては大変ですよ!
冬は寒くても暖房もつけられないし、夏は暑くてもエアコンも付けられない。
しかし温度管理をしてしまうと、『天然醸造』という名が付けられなくなるんです。
『東海醸造』は天然醸造に創業以来こだわっていますので。

けれど意外に、3年4年って早いんですよ。
そろそろ味噌を出そうかな、なんて思ったら、思ったらもうそのくらい経っているんですよ。
あれもう?っていうのが率直な感じです。

味噌や醤油、たまり…これらは本当に手の込んだ食べ物です。
最近ではファストフードなど、すぐ食べられるものが価値があるようですが、是非、手間暇をかけた食品を見直して欲しいですね。


■創業は元禄年間、300年以上の年月が作る深い味わい

天然熟成で年月をかけたたまりや味噌は、旨味とコクがまったく違います。
5つの味の要素、苦い、甘い、辛い…などが、全部入っているんです。
醤油を口にすると、最初は「からい」と思感じるんですが、そのあとで旨味と甘味がすうっと口に残る。
自然のものなので、身体も違和感なく受け付けるんですね。

実は数年前まで、近所の方もここに蔵があるのを知らなかったんです。
それもそのはずで、『東海醸造』のたまりや味噌は、量販店やスーパーさんにはほとんど卸しておらず、飲食店など、業務用として加工所に出していたんです。
素材を活かす飲食店や加工食品の会社ですね。

しかし近年、地産地消や食育が進み、地元産のものを地元の皆様に買って使っていただこうと。
そこで、個人の方向きの販路を作ろうということで、味噌なら500グラム、醤油1リットルペットボトルなど、小出ししに販売できる梱包形態にして、ようやく2~3年前から道の駅、直販所で販売するようになりました。
JANコード(バーコード)を取ったのもそのころ…そんな会社なんですよ、ウチは(笑)

地元の方には知られていませんでしたが、実は創業は江戸の元禄時代。300年ちょっと前です。
五代将軍、綱吉の時代ですね。
元禄は結構良い時代で、『元禄文化が花開き…』と言われるように、上方の庶民文化として井原西鶴の『日本永代蔵』が発刊されたり、松尾芭蕉の奥の細道への出発があったり、あるいは赤穂浪士の討ち入り、生類憐れみの令が発令されたり…結構歴史的にいろいろな事件が起こった頃なんですね
ちょうど、天下が落ち着いて来たからこそ起きた出来事があった時代です。

ウチは元禄時代に味噌・たまりの醸造をしていたのですが、天保年間には『松阪もめん』など、木綿の流通もあったので木綿業にも手を伸ばしまして。
明治になりますと、両替商…今で言う『銀行』も設立したり…そんな経緯もありましたね。


■蔵によって違う『蔵ぐせ』

ウチの蔵で一番大きな桶では5000リットルの味噌が作られます。
熟成させるために上に載せられる重石は120から150個。
もちろんすべて手作業ですよ。

桶の素材は杉です。
杉は耐久性が良く、ここにある中で、古いものは大正5年から約100年、使い続けています。
メンテナンスをしっかりしていれば、全然劣化しないんですよ。

この、杉の木目の中を住処としているのが、麹菌です。
空っぽの桶に真水を入れると、3日くらいで琥珀色になってくるんです。
それだけ菌がいて、繁殖して来るということなんですね。

実は、この麹菌による風合いは、蔵によって違うんです。
これを『蔵ぐせ』と呼びます。
蔵に居着いている菌がその味を出しているので、同じレシピで同じ日に、同じ量仕込んでも、出来上がってくる味はそれぞれの蔵によって微妙に違ってくるんです。
つまり、蔵の中に居着いている麹菌によって、醸し出される味が変わってくる。
なので実は、味噌には『JASマーク』がないんですよ。
規格化された工場生産物ではなく発酵食品。
生き物を相手にしている食品会社なんですね。

私どもが作っているのは、味噌やたまりですが、漬物でもお酒でも、発酵させることによって味を醸し出し、天日干しさせることによって日持ちさせる。
日本人の知恵というのは、すごいものがあるなあ、といつも感心させられます。


■お客さんの要望に合わせた醤油作り

飲食店や加工所向きに、オリジナル醤油も作っています。
お客さんのご意向に沿った醤油作りをしているので、お客さんから配合表をいただいて「このようにしてくれ」というのが、一番手っ取り早いですね。

例えば、しぐれ用のお醤油と蒲焼用の醤油は違います。
砂糖一つとっても、中双糖(ざらめ)なのか黒糖なのか…それぞれの効果、お客様に合わせた原料を選択するわけです。
水飴でも甘さを取るのか照りを重視するのか…蒲焼だったら照りを取るので、そちらの効果の出る飴を使って下さいとかね。

有名店などに使っているすき焼き用の醤油も、小売が可能になったのでどなたでも買うことはできるますよ。
ただし高いです(笑)
そこがネックなんですが、ここに私の心意気が詰まっておりますので。

このように、調味料にかける思い入れを知っていただくと、何故有名店が高いのかもおわかりいただけると思います。
素材が良いのはもちろんのこと、こういった調味料にまでこだわっているからなんですね。

お客様も私どもが作る商品をただ「はい、ありがとう」と使うのではなく、一度現場を見に来られます。
私たちがどういう作り方をして、どういう原料を使っているのかを、見て、納得して使っていただいています。
こうして顔の見える関係、ものの言える関係になれば、お互いに意識を高く持ちながらできるでしょう。

地産地消も、お客さんとの距離が近いという意味で、同じことができると思います。
直接買いに来てくれることで、顔を見て作ることが出来し、お互いの距離が近い分、言葉のキャッチボールも可能となりますよね。
「この商品はもっとこうしてくれ、ああしてくれ」とか。
お互いが納得できる商品を作ることで、商品の価値も上がっていくと思います。
地産地消で生産者と消費者が、Win-Winの関係を築くのも可能だと、私は信じています。